戦後日本の写真界に新風を吹き込んだ写真家・奈良原一高。その初期作品をたっぷりと堪能できる展覧会が、島根県立美術館にて4月17日からスタートします。今回の展示は、奈良原の原点とも言える写真シリーズ《無国籍地》と、彼が関わった前衛画家集団「グループ“実在者”」の作品を紹介する貴重な機会です。芸術に情熱を注いだ若きアーティストたちの姿を、ぜひ会場で感じてみませんか?
芸術家たちの青春が刻まれた「廃墟」
今回の展覧会の主役は、1954年に奈良原が撮影した《無国籍地》シリーズ。廃墟となった大阪の砲兵工廠跡地や東京・王子の軍需工場跡地をモノクロームで捉えた作品群には、戦後の空気とそこに佇む人間の存在が強く投影されています。このシリーズは、奈良原の写真家としての道を切り開いた後の代表作《人間の土地》に先駆けるものであり、まさに「すべての始まり」を感じさせる珠玉の記録です。
そして、同じく1954年、奈良原が出会った仲間のひとり・堀内康司もまた同じ廃墟にインスピレーションを受け、絵画作品を制作していました。今回の展示では、堀内の作品《廃墟》も併せて紹介され、時代と場所を共有した若者たちの熱量を目の当たりにすることができます。
“実在者”の軌跡と奈良原との交差
この展覧会では、奈良原が関わった前衛画家グループ「グループ“実在者”」の活動にもスポットを当てています。このグループは、靉嘔(あいおう)、池田満寿夫、堀内康司、真鍋博らによって1955年に結成され、当時の画壇とは一線を画す鋭い表現を模索していました。奈良原は客員としてグループに加わり、彼らと共に創作の現場に身を置くことで、写真表現においても新たな地平を切り開いていきました。
グループとしての活動は短命でしたが、その熱意は豆本詩画集『5人の片眼の兵隊』という形で結実しました。奈良原の伝説の初個展「人間の土地」も、このグループによる連鎖的な個展活動の一環だったという点からも、当時の仲間たちの絆の深さがうかがえます。
島根県立美術館ならではの特別展示
今回の展覧会の魅力のひとつは、島根県立美術館が世界最多の奈良原作品コレクションを所蔵しているという点。なんと780点にものぼる作品群の中から、貴重な《無国籍地》全50点を一堂に展示するという豪華な内容となっています。
また、同時期の画家である堀内康司のご遺族から寄贈された作品も展示され、視覚芸術としての写真と絵画が交差するユニークな構成に。まさに「作品」と「背景」を同時に感じられる、知的好奇心を刺激される展覧会です。
開催情報まとめ
- 展覧会名:結成70周年記念 奈良原一高《無国籍地》と「グループ“実在者”」の仲間たち
- 会期:2025年4月17日(木)~7月14日(月)
- 時間:10:00~日没後30分(展示室入場は日没時刻まで)
- 休館日:火曜日(ただし4月29日、5月6日は開館)
- 料金:一般300円、大学生200円、小中高生は無料
- 会場:島根県立美術館 コレクション展示室4
戦後を生きた芸術家たちの“原点”に、今こそ触れてほしい
戦後の混乱と再生の中、若者たちは芸術に何を託し、何を表現しようとしたのか。この展覧会では、奈良原一高という写真家の出発点を知るだけでなく、仲間たちと切磋琢磨した時代の空気まで感じられることでしょう。
美術に詳しくない人でも、彼らの作品からはどこか懐かしく、そして力強いエネルギーを受け取れるはず。島根にお住まいの方はもちろん、遠方からの来館も価値ある体験になること間違いなしです!
